夕方うちに帰ってきたら、食卓のうえにどーんと一升瓶が置いてあった。
日本酒、初孫。山形のお酒。飲んでいいのかな。
甘くて香りがよくてとろみがあって、好きな感じ。おいしい。
ああ初孫といったら思い出すことがあります。
うちのすぐそばに住金の団地があって、私がまだ小さかったころちょうど
団地の造成がはじまったんだね。
うちのじいさんも働きに行っていた。
饅頭屋といっても年中忙しい訳ではなかったから、方々土方をやりに行ってた。
饅頭屋だけで生計を立てているのは百年ちょっとの歴史のうち
せいぜい30年くらいのもので、あとは田畑耕したり、そんなんしてたんだね。
近くに飯場ができて、いろんなところから人がきて働いていた。
そこで住み込みでまかないをやっていた夫婦が、山形から来ていた中橋(ちゅうばし)さん。
酒の好きだったうちのじいさんと意気投合して
しょっちゅう飯場に飲みに行ってたんだね。
そんときによく私もついていって、面倒見てもらってたんだってさ。
団地ができて、飯場もなくなり、中橋さんは山形に帰っていきました。
その後もずっと手紙や電話で連絡を取り合って
山形からいろんなものを送ってくれました。お酒はいつも初孫が届きました。
その度にじいさんは飲みながら、中橋さんとの思い出ばなしを語りました。
何べんもおんなじ話。
子どもがいなかった中橋さん夫婦に、圭子は可愛がってもらったんだって。
いつのまにか連絡が途絶えて。
生きていれば100歳越えのじいさんより歳が少し上だったから
もはやご存命ではないだろうけど、今でも時々話が出てくる。
飲みながら思い出していたことです。
山形今夜は雪みたいです。